神戸家庭裁判所 昭和40年(家)1519号 審判 1965年10月26日
申立人 戸村隆男(仮名)
右法定代理人親権者母 戸村正子(仮名)
主文
本件申立はこれを却下する。
理由
(1) 本件申立の要旨は「申立人は昭和二四年六月二三日戸村正子と大沼金作(本籍神戸市兵庫区○○町○丁目五二番地、大正六年九月八日生)の間に出生し、昭和四〇年四月五日金作の認知をうけた者である。ところで、金作は妻ヤス子との間に子がないところ、今般申立人に対し、昭和四五年一二月末日に金三〇〇万円を申立人に贈与するから、遺留分の放棄をされたい旨申し向けた。そこで、申立人としては、遺留分の放棄を決意し、その許可を求めるべく、本件申立に及んだものである」というのである。
(2) そこで考えてみるに、本件調査の結果(申立人審問の結果を含む)によると、申立人主張の上記事実は、すべてこれを認めることができる。しかしながら、申立人が父金作から既に金三〇〇万円の贈与をうけ了つているというのであれば兎も角、本件においては、唯単に五年後に金三〇〇万円を贈与するという契約がなされているに過ぎないのであつて、それが果して現実に履行されるか否かについては、現在のところ、たやすく予断を許さないのであるから、このような事情の下で遺留分の放棄を許可するときは、他日申立人にとつて、予想外の事態を招き、思わぬ損害を惹起する虞れがないとはいえない。そうすると本件遺留分放棄は相当でないから、それを許可することはできないという外はない。
よつて、本件申立はこれを却下し、主文のとおり審判する。
(家事審判官 坂上弘)